NTTは第2世代光電融合デバイス「PEC-2」を用いたCPO(Co-Packaged Optics)方式のスイッチを2026年度中(2027年3月まで)に商用化する。米NVIDIAや米Broadcomが先行するAIデータセンターの高速インターコネクト市場に対し、ソケット型脱着機構を備えたデバイスで参入を図る。
AIクラスタの「銅線の壁」と主要3社の開発ロードマップ
大規模AIクラスタの拡大に伴い、サーバーラック内やラック間を結ぶ銅線DAC(Direct Attach Copper)ケーブルは伝送距離と消費電力の物理限界を迎えている。電気信号の減衰を補正するリタイマーチップの電力負荷が増大し、演算性能をスケールさせるボトルネックとなっている。
この課題を解決するため、スイッチASICやプロセッサと光エンジンを高密度に同一基板上に実装するCPO(Co-Packaged Optics)への移行が進んでいる。
先行する米国勢と、追うNTTの技術開発および商用化の経緯は下表の通りである。
| 開発主体 | 主な製品・技術 | 商用化・量産の時期 | 主な仕様・エコシステム |
|---|---|---|---|
| NVIDIA | Spectrum-X / Quantum-X Photonics | 2026年8月量産段階 | 200G/レーン対応。CoherentやLumentumへ計40億ドルを投資 |
| Broadcom | Tomahawk 6 – Davisson(TH6-Davisson) | 2025年10月発表 | 102.4Tb/sスイッチング容量。自社シリコンフォトニクス統合 |
| NTT | 第2世代光電融合デバイス(PEC-2) | 2026年度中(2027年3月まで) | Broadcom製チップ、台湾Acctonのシャーシを採用したソケット型 |
NVIDIAは2026年3月に光部品大手の米Coherentおよび米Lumentumへ各20億ドル(計40億ドル)の戦略出資を行い、光エンジンのサプライチェーンを固めた。2026年8月には200G/レーン対応のイーサネットスイッチ「Spectrum-X」の量産段階入りを表明している。
Broadcomは102.4Tb/sのスイッチング容量を持つ「Tomahawk 6 – Davisson」を展開し、大手ハイパースケーラー向けのインターコネクトを抑えにかかる。
対するNTTは、経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において最大約452億円の助成を受け、デバイス開発を進めてきた。2026年3月の「MWC Barcelona 2026」において島田明社長が公表した通り、2026年度末を期限としてグローバルなデータセンター市場への投入を進めている。
参考記事: 光伝送ネットワークの仕組みと最新技術|DWDMからIOWN・光電融合ロードマップまで解説
プラガブルからCPOへ移行する技術的境界条件
光インターコネクトの実装形態が着脱式(プラガブル)トランシーバーからCPOへ切り替わる背景には、電気信号の損失とDSP(デジタルシグナルプロセッサ)による消費電力の急増がある。
1レーンあたり200Gbpsを超える伝送速度では、スイッチASICからフロントパネルまでのPCB配線長(約20〜30cm)による高周波減衰が無視できないレベルに達する。
【従来のプラガブル方式】
[スイッチASIC] ──(PCB配線 20-30cm / 減衰大)──> [DSPリタイマー] ──> [光トランシーバ] ──> 光ファイバー
【CPO方式】
┌─ 同一基板(サブストレート) ────────┐
│ [スイッチASIC] ──(数mm配線)──> [光エンジン] │ ──> 光ファイバー
└────────────────────────┘
既存のプラガブル方式とCPO方式の技術的差異は以下の通りである。
| 項目 | プラガブル光トランシーバー | CPO(Co-Packaged Optics) |
|---|---|---|
| 電気配線長 | 20cm〜30cm程度(PCB伝送) | 数mm〜十数mm程度(基板内直結) |
| DSP/リタイマー | 必須(波形整形と減衰補正のため) | 不要、または大幅な低消費電力化が可能 |
| ネットワーク電力効率 | 基準値(1.0倍) | 最大3.5倍〜5倍に改善(NVIDIA公表値) |
| 実装上の最大課題 | フェースプレートの開口面積・排熱限界 | 光源の熱耐性、故障時のモジュール交換性 |
CPO実用化における技術的条件は「光エンジンのパッケージ集積」そのものではなく、「光モジュールの故障率(FIT)低減」と「レーザー光源の熱分離」の達成にある。
化合物半導体を用いる半導体レーザーは熱に弱く、100度近くまで発熱するスイッチASICやGPUの直近に配置すると寿命が低下する。そのため、レーザー光源を外部ユニットとして切り離す「ELS(External Laser Source)」規格の採用や、NTTがPEC-2で採用した「ソケット型脱着機構」による歩留まりと保守性の確保が必須要件となる。
調査会社IDTechExの予測によると、AIデータセンター向け光トランシーバーに占めるCPOの比率は2026年時点で1%未満にとどまる。しかし、2030年には35%超へ拡大し、2036年には市場規模が200億ドルを突破する見込みだ。
参考記事: AI半導体の演算効率を10倍に高める技術とは?3D積層・光電融合の実用化ロードマップと鍵となる技術
プラットフォーマーと光通信エコシステムへの影響
CPOの普及は、サーバーやネットワーク機器の調達構造を根本から変化させる。
半導体設計企業(GPU・AIアクセラレータ)
NVIDIAなどのアクセラレータ企業は、GPU間接続インターコネクトの帯域を拡張するため、光接続をクラスタ設計の標準として組み込む。NVLinkなどの独自インターコネクトを光電融合技術と一体化させることで、ラックを跨ぐスケールアップ接続を物理的に可能にし、競合チップの参入障壁を築く。
通信半導体・機器メーカー
Broadcomは自社ASICと光エンジンのパッケージングを垂直統合し、通信レイヤのシェア維持を狙う。台湾Accton TechnologyなどのODMと組み、リファレンス設計を提供することで、従来のスイッチ機器ベンダーを介さないデータセンター直販モデルを加速させる。
光部品・トランシーバーベンダー
これまでデータセンター市場を支えてきた着脱式トランシーバーの需要は、CPOの浸透に伴い徐々に置換される。CoherentやLumentumのように半導体大手と資本提携を結び、CPO用光エンジンやELSの供給元としてサプライチェーンに組み込まれる企業と、既存モジュール組み立てに依存する企業の間で二極化が進む。
通信キャリア(NTT)
自社の光電融合デバイス「PEC-2」を、グローバルAIインフラの共通コンポーネントとして流通させられるかの正念場となる。Broadcom製ASICと組み合わせるオープンなソケット型エコシステムを武器に、NVIDIAによる独占的クラスタの外側にあるハイパースケーラーの需要を獲得できるかが問われる。
参考記事: 6G(第6世代移動通信)とは?5Gとの違いからIOWNなどのコア技術と2030年の実用化シナリオを徹底解説
TechShiftの視点:次期インフラ設計で追うべき定量的指標
AIインフラの投資判断やハードウェア選定を担う技術責任者は、ベンダーのロードマップ発表ではなく、以下の定量的指標の達成度を評価基準とすべきである。
- インターコネクト消費電力の閾値: 光エンジン単体で「5pJ/bit以下」を達成できているか(従来のプラガブルは15〜20pJ/bit)。この数値を下回らなければ、CPO移行に伴う基板再設計のコストを回収できない。
- ソケット型接合の挿抜耐久性と光学損失: NTTのPEC-2のような脱着式機構において、結合損失が「0.5dB以内」に収まっているか。現場でのモジュール交換時に調芯エラーが発生しない機構的再現性が量産の前提となる。
これら3つの指標がクリアされた段階が、社内基盤やデータセンター調達におけるCPO正式採用の判定基準となる。
まとめ
銅線インターコネクトの物理的限界が迫る中、データセンターの主導権争いはプロセッサ単体の計算能力から、光電融合を軸としたパッケージング技術へ移った。2026年度末にかけて先行するNVIDIAの垂直統合モデルと、NTTが推し進めるソケット型デバイスの商用展開が本格化する。技術責任者は伝送損失と交換性を両立するハードウェア仕様を早期に精査し、次世代インフラの選定基準を更新する必要がある。
出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: NTT 公式サイト
出典: NVIDIA 公式サイト
出典: Yole Group
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