米UltraSense Systemsの経営陣は2026年9月12日、表面下に配置した音響センサーで接触や力を検出する物理AI(Physical AI)向け超音波触覚センシング技術に関する解説記事を米ロボティクス専門メディアに寄稿した。ファナックや安川電機などが強みを持つ産業用ロボットや精密マニピュレーション分野において、従来の電子皮膚が抱えていた摩耗や信号ドリフトへの対抗手段となる。
表面下超音波センシングへの転換と市場データの推移
ロボットハンドやグリッパーによる高器用性マニピュレーションでは、接触の検知にとどまらず、垂直力・せん断力・滑りの兆候、接触素材の判別が求められる。従来のフレキシブル基板を用いた電子皮膚(静電容量方式やピエゾ抵抗方式)は、受感層が接触面のごく近傍に露出するため、繰り返しの圧縮や摩擦、経年劣化による信号ドリフトが実用上の壁となっていた。
UltraSense Systemsは、車載ヒューマンマシンインターフェース(HMI)向けに累計400万個以上のコントローラーを出荷してきた実績を持つ。同社はこの量産技術をロボティクスへ転用し、保護層の奥から接触状態を非破壊で読み取る表面下(Sub-surface)センシングの商用化を進めている。
世界的な市場調査においても、ロボット向け触覚技術への投資と需要は急伸している。Fortune Business Insightsによると、触覚センサー市場は2025年の189.6億ドルから2026年には215.6億ドルへ達し、2034年には603.9億ドル規模へ成長する見込みだ。フレキシブル触覚センサーシート市場(2025年時点で38億ドル)においても、用途の32.5%をロボティクス分野が占める。
| 項目 | 従来の表面結合型電子皮膚 | UltraSenseの表面下超音波方式 |
|---|---|---|
| センサー配置 | 接触面の直上または極表層 | 外皮(エラストマー/金属等)の直下 |
| 主な課題 | 摩耗、ヒステリシス、ベースラインドリフト | 音響インピーダンス整合の設計難度 |
| 空間解像度 | 数mm(保護層を厚くすると低下) | 500µm(エラストマー透過時) |
| 耐久性 | 数万〜数十万サイクルで再校正が必要 | 数百万サイクルの連続稼働に対応 |
中国電子学会(CIE)が2026年3月に策定した「ヒューマノイドロボット及び具現化知能の国家標準体系」でも、産業自動化が困難なタスクの約80%が触覚に関係していると言及された。高耐久な触覚モジュールの量産化は、世界的な物理AI開発競争の前提条件となりつつある。
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音響インピーダンス解析とTime-of-Flightが実現する計測精度
なぜ超音波による表面下計測が、薄膜型センサーと同等以上の精度を達成できるのか。その理由は、音響波の伝播時間(Time-of-Flight: ToF)、反射振幅、周波数応答、そして音響インピーダンスの差異を単一のモジュールで統合解析できる点にある。
接触面に物体が触れると、外皮のエラストマー層が変形し、音響経路の長さと境界条件が変化する。UltraSenseのシステムは超音波パルスを送信し、反射波の到達時間と振幅の減衰をミリ秒未満で捉える。
- 空間解像度: エラストマー層を透過した状態で500µmを達成。接触面の微細な溝や凹凸パターンを分離して認識可能。
- 圧縮力プロファイリング精度: 約1.25mNの分解能で垂直方向の荷重分布を計測。
- せん断力推論ノイズフロア: 約5mNの低ノイズ設計により、微小な横滑り(マイクロ・スリップ)を視覚センサー検知前に捕捉。
- 素材識別: 物体ごとの音響インピーダンス(密度×音速)の違いを反映した反射シグネチャを解析し、金属、ガラス、樹脂、布、生体組織を識別。
このアーキテクチャの利点は、外層の機械的要件とセンシング素子を完全に分離できる点にある。ロボットハンドの外皮には摩擦係数や耐摩耗性、耐薬品性に優れた任意の素材を採用できる。金属や高耐久ポリマーの奥にセンサーを配置しても計測が成立するため、油分やクーラントが飛散する現場でもセンサー自体が劣化しない。
同社は2026年4月に評価キットの投入を発表し、同年7月にはハンド全体を制御する128チャネルASICへの移行計画を示した。エッジ層で音響信号処理と局所推論を完結させる専用SoCにより、ロボットコントローラーへ即座に接触マップを出力する体制を整えている。
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日本のロボティクス産業と部品サプライチェーンへの波及
表面下超音波触覚の実用化は、日本のロボット部品メーカーおよびエンドエフェクター開発企業に対して直接的な影響を与える。
第一に、エンドエフェクター(ロボットハンド)の設計基準が変化する。2025年に改定された産業用ロボットの国際安全規格「ISO 10218-1:2025」および「ISO 10218-2:2025」では、ロボットの外皮や触覚センサーを用いた協調安全の妥当性確認(バリデーション)が厳密に求められる。従来の電子皮膚は、繰り返しの衝撃によって生じる感度ドリフトを日常的に再校正する必要があり、安全認証の維持が困難だった。過酷な産業環境で数百万回の打鍵・接触に耐える超音波モジュールは、安全規格の維持コストを低減させる。
第二に、車載Tier1サプライヤーのロボティクス参入である。日本にはデンソーやアイシンをはじめ、超音波ソナーや車載MEMSセンサーで高度な実装・量産技術を持つ企業群が存在する。UltraSenseが自動車HMIからロボティクスへ転換したように、車載規格を満たす堅牢な音響部品の製造能力は、物理AIの指先モジュール開発へ直接転用できる。
構造的な障壁となるのは、エラストマー素材と音響素子を密着させる材料界面の設計ノウハウである。超音波は空気層が存在すると減衰するため、保護外皮とセンサー間の接着信頼性や音響整合層の設計が量産歩留まりを左右する。この領域は、日本の高分子化学メーカーや精密パッケージング企業が比較優位を発揮しやすい分野といえる。
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技術責任者が着手すべき実務ロードマップ
物理AIと具現化知能の実用化に伴い、ハードウェアの選定基準は「実験室での高感度」から「24時間365日の連続稼働に耐える信号完全性」へと移行している。技術責任者および事業開発担当者が取るべき具体的なアクションは以下の通りである。
- エンドエフェクターの耐久性限界と保守コストの洗い出し
既存のグリッパーや力覚センサーにおいて、ワーク把持面の摩耗や衝撃によるドリフトがどの頻度で発生し、タクトタイムや再校正作業にどれだけの工数を割いているかを数値化する。
- 表面下超音波センシングのテスト導入と界面適合性の検証
保護層の厚みや素材(耐油エラストマー、ウレタン樹脂、金属カバー)を変えた際の音響透過特性を評価する。市販の超音波評価キットを用い、500µm前後の空間解像度とせん断力検出が自社ワークの把持に十分か実測を行う。
- 触覚フィードバックを組み込んだ制御ループの再設計
把持滑り(スリップ)の予兆検知から把持力調整までのレイテンシを測定し、ビジョン処理と協調動作させるエッジ処理アーキテクチャを確立する。
出典: The Robot Report
出典: PR Newswire
出典: PR Newswire
出典: Fortune Business Insights
出典: Dataintelo
