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Home > 量子ゲート型コンピュータ> 米商務省がRigettiとD-Waveに各1億ドル支援|日本企業の量子調達戦略
量子ゲート型コンピュータ 2026年9月13日
民間資金頼みのハイリスクな量子開発 -> CHIPS法出資と製造基盤を束ねた国家主導の育成体制 Impact: 78 (Accelerated)

米商務省がRigettiとD-Waveに各1億ドル支援|日本企業の量子調達戦略

米商務省がRigettiとD-Waveに各1億ドル支援|日本企業の量子調達戦略

米商務省は2026年9月、CHIPSおよび科学法に基づきリゲッティ・コンピューティング(Rigetti Computing)とD-Wave Quantum(ディーウェイブ・クアンタム)に対し、それぞれ最大1億ドルの研究開発資金を交付する正式契約を締結しました。量子技術イノベーション拠点(Q-LEAP)などを通じて国産量子技術の実装を進める日本の研究機関や民間企業にとっても、北米ハードウェアの調達安定性と技術選択肢を再検討する明確な基準となります。

米国CHIPS法が主導する量子ハードウェア支援の全貌

今回の資金拠出は、単なる民間の株式希薄化を伴う資金調達や返済義務のある融資ではありません。2022年8月に成立した「CHIPSおよび科学法(CHIPS and Science Act of 2022)」に基づき、米商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)が主導する産業育成施策です。具体的には「その他の取引契約(Other Transaction Agreement: OTA)」の枠組みを採用し、政府が研究開発資金を提供する見返りとして、支援先企業の非支配的な少数株式(minority, non-controlling equity stake)を取得します。

米政府は2026年5月、先端量子技術の国内エコシステム強化を目的に、9社に対して総額約20億1,300万ドルを分配する意向表明書(LOI)を締結していました。今回正式契約に達したリゲッティとD-Waveは、その中核を担う独立系ハードウェア企業です。同枠組みでは、大手半導体ファウンドリの米グローバルファウンドリーズ(GlobalFoundries)も3億7,500万ドルの研究開発契約を正式締結しており、先端演算チップの製造能力と量子システムの統合を同時に底上げする狙いがあります。

資金交付は一括ではなく、事前に設定された技術的マイルストーンの達成度に応じた段階的(トランチ)方式です。契約初期の割り当て額は、D-Waveが約5,355万ドル、リゲッティが約4,390万ドルとなっています。残額は各社が提示したロードマップの開発成果に応じて順次支払われます。

企業名 主力アーキテクチャ 政府割当株式数 最大助成規模
Rigetti Computing 超伝導ゲート型(マルチチップ構造) 約774万株 最大1億ドル
D-Wave Quantum 量子アニーリング方式・ゲート型 約710万株 最大1億ドル
GlobalFoundries 超伝導・光子向けファウンドリ製造 (製造助成枠) 最大3億7,500万ドル

支援を受けた2社は、対照的な財務状況と商用化の深度を示しています。カナダに本拠を置き米国市場で事業を展開するD-Waveは、特定用途の最適化計算においてすでに商業利用を確立しつつあります。2026年第2四半期の売上高は310万ドル、2026年上半期の累計受注額(Bookings)は3,550万ドルに達しました。売上高の62.4%を一般商用顧客が占め、その約半数がフォーブス・グローバル2000に選ばれる大手エンタープライズ企業です。

一方、米カリフォルニア州バークレーを拠点とするリゲッティは、ゲート型超伝導量子プロセッサの開発に特化しています。2026年第2四半期の売上高は約510万ドルで、直近12か月の売上規模は約1,000万ドルにとどまります。巨額の先行投資に伴う純損失が継続しており、自社単独でのキャッシュ創出による研究開発継続には構造的な課題を抱えていました。政府出資によるランウェイ(資金維持期間)の確保は、次世代プロセッサの実装において不可欠な前提条件でした。

参考記事: 量子コンピュータとは?仕組みからビジネス活用・2030年実用化シナリオまで徹底解説

ゲート型スケーリングとアニーリングの実装要件

今回の助成金によって両社が推進する技術開発は、それぞれ直面している物理層のボトルネックを解消することに集中しています。

リゲッティ:マルチチップタイリングによる超伝導ゲート型の拡張

ゲート型量子コンピュータの主流である超伝導方式は、コヒーレンス時間を維持しながら量子ビット数を増やす段階で物理的な配線限界と熱負荷に直面します。単一の大型シリコンダイ上に数千個の量子ビットを高密度に並べると、クロストーク(信号干渉)が増加し、1つの欠陥がチップ全体の歩留まりを破壊します。

リゲッティはこの課題に対し、チップレット(小規模チップ)を平面上にタイリング接続するモジュラー構造を選択しました。2026年に実稼働させた「Cepheus-1-108Q」は、9量子ビットのチップレット12個を組み合わせて108量子ビットを実現しています。ゲート操作時間は50〜70ナノ秒ですが、接続境界部におけるエラー率の抑制が最大の難所となっていました。

今回のCHIPS助成金において、リゲッティは資金使途を以下の3つの技術領域に明確に定めています。

  • 極低温読み出し回路の集積化による物理配線本数の削減
  • 新規クライオスタット(希釈冷凍機)構造による極低温冷却能力の桁違いの拡張
  • シリコンインターポーザを用いた高密度3次元配線と高接続性チップレットの実装

これらの開発は、ノイズ耐性量子計算(NISQ)環境から、表面符号などを用いた誤り訂正論理量子ビットを形成するための必須条件です。

D-Wave:特定問題の商用利用とFTQCへの二線論理

D-Waveは商用実績を先行させてきた量子アニーリング方式の拡張を継続しながら、同時にゲート型システムの開発を並行して進めるハイブリッド戦略をとっています。

アニーリング方式においては、イジング模型や二次制約なしバイナリ最適化(QUBO)問題に特化し、物流経路最適化やポートフォリオ配分などの実務課題を処理します。同社は2029年までに20,000量子ビット、2031年までに100,000量子ビットを備えるアニーリングプロセッサの配備を計画しています。

同時に発表しているゲート型ロードマップでは、10,000物理量子ビットから100論理量子ビットを抽出し、100万回以上のゲート演算に耐えうる誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)の開発を掲げています。アニーリングマシンで培った超伝導集積回路の製造技術と磁場シールド技術を、そのままゲート型基盤に転用するアーキテクチャ設計です。

項目 Rigetti(Cepheus基盤) D-Wave(Advantage基盤)
計算パラダイム ゲート型(汎用型演算) 量子アニーリング(最適化特化)
量子ビット制御方式 マイクロ波パルス駆動 極低温磁束バイアス制御
演算実行速度 1ゲートあたり50〜70ナノ秒 アニーリング時間1〜2000マイクロ秒
2031年目標水準 誤り耐性論理量子ビットの配備 100,000アニーリング / 100論理ビット

参考記事: 量子アニーリング入門|基礎から仕組み、社会実装の最前線まで

参考記事: 量子優位性とは?量子超越性・ユーティリティとの違いと2030年までの導入ロードマップ

日本の産業構造とサプライチェーンへの影響

米国政府が自国の量子ハードウェア企業に対し、株式取得を伴う実質的な公的資本注入を行ったことは、海外ベンダーのハードウェアを利用している日本企業にも直接的な影響を与えます。

日本の製造業、物流業、金融機関はこれまで、アマゾン ウェブ サービス(AWS)の「Amazon Braket」や米マイクロソフト(Microsoft)の「Azure Quantum」経由で、リゲッティやD-Waveのプロセッサへアクセスしてきました。ハードウェアスタートアップに常につきまとう資金ショートによるサービス停止リスクが、米商務省の資本参加によって2〜3年程度後退したことは、短期的なPoC(概念実証)の継続性を担保します。

しかし、構造的なサプライチェーンの観点からは新たな摩擦が生じます。米政府が少数株主として直接関与することにより、先端量子プロセッサおよびその知財(IP)に対する安全保障上の管理基準が厳格化する公算が高いためです。米国防総省や商務省によるデュアルユース(軍民両用)技術規制の対象となった場合、日本国内の企業がオンプレミスでハードウェアを導入する際の審査や、クラウド経由での機密データ処理に関するデータローカリティ要件が引き上げられる可能性があります。

また、日本の量子ハードウェア開発環境との対比も浮き彫りになっています。日本国内では理化学研究所や富士通が超伝導方式の国産量子コンピュータ開発を進めています。一方で、要素技術である極低温希釈冷凍機、マイクロ波同軸ケーブル、極低温アンプなどの物理サプライチェーンにおいては、日本の中小・中堅精密機器メーカーもサプライチェーンに関わっています。米国ハードウェアベンダーへの資本集中は、日本の部材サプライヤーにとっては直接的な輸出機会の拡大を意味します。

参考記事: 量子クラウドサービスの選定基準と導入ロードマップ|主要プラットフォーム比較からセキュリティ、国内環境まで徹底解説

技術責任者・事業責任者が取るべき対応

北米における量子産業政策の進展を踏まえ、国内の企業ユーザーおよび投資家は以下のステップで検証環境と調達ポートフォリオを見直す必要があります。

  1. クラウド調達先ハードウェアの事業継続性評価

利用中の量子アルゴリズムが特定のハードウェア構造に過度に依存していないかを検証します。特定ベンダーのAPIに密結合した実装を避け、QiskitやPennyLaneなどのオープンソースSDKを介した抽象化レイヤーを維持することが重要です。

  1. ユースケースの二線化(短期最適化と中長期FTQC)

3〜5年の短中期で事業効果を狙う組合せ最適化課題にはD-Waveなどのアニーリング方式を継続適用します。創薬スクリーニングや材料シミュレーションなど、論理誤り訂正が不可欠な領域にはゲート型のロードマップを監視し、適用領域を明確に分離して投資配分を決定します。

  1. 国内サプライチェーンおよび国産インフラの併用検証

海外ベンダーのガバナンス変更に備え、理研を中心とする国内量子インフラや地域拠点のクラウドアカウントを確保し、技術検証を冗長化します。

出典: moomoo
出典: JETRO ビジネス短信
出典: SEC EDGAR Form 8-K (D-Wave Quantum Inc.)
出典: SEC EDGAR Form 8-K (Rigetti Computing, Inc.)
出典: D-Wave Quantum プレスリリース
出典: Rigetti Computing プレスリリース

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