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Home > 量子ゲート型コンピュータ> QuantinuumがCHIPS法1億ドル獲得|量子チップ量産で問われる日本調達網
量子ゲート型コンピュータ 2026年9月9日
手組みバルク光学系の実験室型イオントラップ -> 300mmファブと集積フォトニクスによる半導体量産 Impact: 78 (Accelerated)

QuantinuumがCHIPS法1億ドル獲得|量子チップ量産で問われる日本調達網

QuantinuumがCHIPS法1億ドル獲得|量子チップ量産で問われる日本調達網

Quantinuum(クオンティニュアム)は2026年9月8日、米商務省と「CHIPSおよび科学法」に基づく最大1億ドルの資金提供協定を締結した。

米商務省が主導する20億ドル規模の量子半導体エコシステム

米商務省のCHIPS研究開発オフィス(CHIPS Research and Development Office)は、先端半導体の製造能力確保にとどまらず、耐障害性量子コンピュータ(FTQC)のサプライチェーンを米国内へ囲い込む動きを本格化させている。今回のQuantinuumとの合意は、2026年5月21日に発表された総額20億1,300万ドルに及ぶ量子向け連邦支援表明(Letter of Intent: LOI)を正式に契約締結へと進めたものである。

今回の合意は一般的な補助金交付とは異なり、防衛高等研究計画局(DARPA)などで多用される「その他取引協定(Other Transaction Agreement: OTA)」が採用された。契約期間は最大5年間にわたり、契約締結時にまず5,600万ドルが交付され、残額は開発マイルストーンの達成に応じて3,200万ドル、1,200万ドルのトランシェに分けて配分される。

さらにQuantinuumは資金提供協定と並行し、商務省に対してクラスA普通株式2,369,528株(約237万株)を割り当てる証券発行契約(Securities Issuance Agreement)を締結した。この取り決めには一定条件下での1ドル買い戻し権や登録権が含まれており、米国政府が特定民間企業の株式を直接引き受けて技術を国内に固定化する異例の構造が取られている。

商務省が2026年5月に提示した支援対象は合計9社に上る。米国内で量産ラインを持つ大手ファウンドリ2社と、各方式のハードウェア有力企業7社で構成されている。

支援対象企業 採択カテゴリー 割当金額(LOI公表値) 主な役割・開発アーキテクチャ
IBM 受託製造・先端パッケージング 10億ドル 超伝導量子プロセッサの商用量産ライン構築
GlobalFoundries 受託製造・ファウンドリ 3億7,500万ドル 300mmウェハーによる量子制御基盤・新部門設立
Quantinuum ハードウェア開発 最大1億ドル イオントラップ型(QCCD)の高密度集積化
Rigetti Computing ハードウェア開発 最大1億ドル 超伝導方式のマルチチップモジュール開発
D-Wave Quantum ハードウェア開発 約1億ドル アニーリング型およびゲート型量子プロセッサ製造
Infleqtion ハードウェア開発 約1億ドル 中性原子方式ハードウェアの米国内製造
Atom Computing ハードウェア開発 約1億ドル 中性原子型の大規模FTQCシステム開発
PsiQuantum ハードウェア開発 約1億ドル シリコンフォトニクス光量子プロセッサ開発
Diraq ハードウェア開発 3,800万ドル シリコンドットスピン量子ビットのCMOS製造

この支援スキームにおいて、商務省はグローバルファウンドリーズ(GlobalFoundries)に対しても約1%の戦略的マイノリティ株式を取得する取り決めを交わしている。GlobalFoundriesは受け取った支援を原資に、量子受託製造の専用部門「Quantum Technology Solutions」を立ち上げた。Quantinuumは同部門の300mmウェハー製造ラインへ次世代イオントラップチップや制御電子機器の製造を委託する。

並行してQuantinuumは、集積フォトニクスを手掛けるモナーク・クアンタム(Monarch Quantum)との連携を拡大した。Monarch Quantumは2026年1月6日に米サンディエゴで発足した企業であり、同年3月31日には5,500万ドルの資金調達を完了させている。同社はQuantinuumや米航空宇宙局(NASA)などから累計6,000万ドル超の受注を獲得しており、光学系をチップレベルに縮退させる製造ラインを担う。

物理実験室で光学定盤の上に組まれていたイオントラップ装置は、ファウンドリとフォトニクス工場の標準プロセスへと接続され始めた。政府が株式を保有しながら製造装置インフラとハードウェアベンダーを直接結合させる手法により、米国内の垂直統合型サプライチェーンが形成されている。

参考記事: ノボノルディスク財団が5300㎡量子チップ工場|ファブレス転換の勝機

300mmウェハーと集積フォトニクスが解くイオントラップのスケール課題

Quantinuumが採用するQCCD(Quantum Charge-Coupled Device)アーキテクチャは、真空中で浮遊させた単一イオンを電極電圧の制御によって自在に移動(シャトリング)させ、任意の量子ビット間で高精度なゲート操作を行う方式である。2025年末時点のベンチマーク研究において、同社は物理2量子ビットゲートの平均忠実度で99.9%を超える数値を記録しており、誤り耐性型量子計算に向けた精度の面で業界を先行してきた。

しかし、イオントラップ型には克服すべき物理的障壁が存在していた。従来の構成では、イオンを捕捉するRF電極チップの周囲に大量のバルク光学部品(ミラー、レンズ、音響光学変調器)を配置し、外部からレーザー光を照射する必要があった。量子ビット数を数十個から数千個へ拡張しようとすると、外部光学系が肥大化して振動や熱揺らぎによるビーム位置ズレを招き、システムの小型化と安定動作を阻害していた。

この物理的限界を打破する前提条件(Prerequisites)が、半導体ファウンドリによる300mmウェハープロセスと集積フォトニクス・エンジンの導入である。

【従来のイオントラップ方式(物理実験室型)】
[外部バルクレーザー] ──> [複雑なミラー・レンズ光学系] ──> [手組みのトラップチップ]
・熱膨張や振動によるビーム軸ズレが発生
・配線や電極を手作業でワイヤボンディング
・歩留まりが低く、数百物理ビット以上の集積が困難

【今回の300mmファブ+集積フォトニクス連携】
[Monarch Quantum製 集積フォトニクス・エンジン]
  │(導波路を介して光を直接チップ内へ導入)
  ▼
[GlobalFoundries製 300mmウェハー(多層RF電極+DAC制御回路)]
・光学系を微細導波路としてチップ内部に集積
・均一な300mm CMOSプロセスによる配線寄生容量の削減
・機械的振動の影響を排除し、ウェハー単位の大量複製が可能

GlobalFoundriesが担う300mmプロセスは、トラップ表面に形成される複雑な微細電極アレイの加工精度を飛躍的に高める。チップ表面に極小の凹凸や不純物が存在すると、電極表面のパッチ電位によってイオンが加熱され、デコヒーレンスを引き起こす。半導体工場クリーンルームのCMP(化学機械研磨)および多層配線プロセスを適用することで、表面粗さをナノメートル単位で均一化し、電極間の寄生容量と高周波損失を低減できる。

さらに、イオンを移動・制御するための多チャネル高精度DAC(デジタル・アナログ変換器)やスイッチング回路を、イオントラップ基板と同一パッケージ内あるいは3次元積層技術(3Dパッケージング)で統合することが可能となる。これにより、真空チャンバー外部から引き込む数千本規模のアナログ制御配線を大幅に集約できる。

一方、Monarch Quantumが供給する集積フォトニクス・エンジンは、冷却・光ポンピング・ゲート操作・状態検出に必要な複数波長のレーザー光を、シリコン窒化膜(SiN)などの低損失光導波路を用いてチップ表面直下まで直接配光する。空間を伝播するレーザービームを完全に排除し、導波路終端に形成された微細グレーティングカプラーから各トラップゾーン内のイオンに向けてスポット光を垂直照射する。

この構造により、外部の振動や温度変化に対する光軸ズレの耐性が根本から向上する。隣接する量子ビットへの光漏れ(光クロストーク)も大幅に抑制され、高密度に配置されたトラップゾーンの個別操作が現実的なものとなる。

高精度な物理ビット特性を維持したまま、チップの複製可能性(Reproducibility)と歩留まりを商用半導体水準まで引き上げることが可能になった。実験室の手組み装置から脱却し、半導体エコシステムの上でスケーリングを完結させる工業製品への転換が進んでいる。

参考記事: トラップドイオン量子コンピュータの実用化時期は?60論理ビットが切り拓くFTQCロードマップと技術的課題

参考記事: オラクルとQuantinuum、クラウド量子コンピューティング提供で複数年契約を締結

日本の半導体・光部品サプライチェーンに突きつけられた課題

米国におけるCHIPS法を通じた製造基盤の囲い込みは、日本の半導体産業および量子ハードウェア戦略に対しても直接的な方針転換を要求している。量子コンピュータを単なる基礎研究の対象として扱うフェーズは終了し、既存のファウンドリ資産をどのように量子対応へ転用できるかが競争軸となっている。

日本国内では文部科学省のQ-LEAP(光・量子飛躍フラッグシッププログラム)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトを通じて、理化学研究所や産業技術総合研究所を中心に量子プロセッサの開発が進められている。しかし、プロセッサチップ自体の試作は研究機関内のクリーンルームや一部のカスタムMEMSラインに依存しているケースが多い。米国の動向は、300mm商用ラインを持つプレイヤーを巻き込まなければ、FTQCに必要な素子集積度と歩留まりを達成できない現実を示している。

現在、Rapidus(ラピダス)やキオクシア、ルネサス エレクトロニクスなどの国内半導体メーカーにおいて、量子専用の受託製造プロセスを立ち上げる公式な動きは限定的である。GlobalFoundriesのように、先端ロジック微細化競争の最前線から一定の距離を置きつつ、特殊付加価値プロセス(モア・ザン・ムーア)として量子向け300mmファウンドリ部門を事業化する戦略は、国内の既存ファブにとっても重要な選択肢となる。

サプライチェーンの構成要素という観点では、日本企業が強みを持つ部材・製造装置分野において新たな参入機会と構造的リスクの双方が生じている。

構成要素 日本企業の保有技術・優位性 直面する構造的課題・参入障壁
光導波路・化合物半導体 低損失な石英・SiN導波路技術、短波長半導体レーザー 米国ファブ内での一貫集積(オンチップ化)による外付け部品の排除
イオントラップ電極材料 高純度貴金属ターゲット、電解めっき材料の超高純度化 300mmウェハー対応の専用成膜レシピの共同開発体制の欠如
極低温パッケージング 高密度セラミック基板、低温対応フリップチップ実装 量子ビット制御特有の高周波・熱設計に対応する設計標準化の遅れ
真空・冷却コンポーネント 超高真空(UHV)ゲッターポンプ、極低温冷凍機 システム全体がモジュール化され、米系一次ベンダーに規格を握られるリスク

特に警戒すべきは、Monarch Quantumのような集積フォトニクス専業ベンダーの台頭である。従来、イオントラップや冷却原子方式に用いられる特殊波長レーザー光源や高精度アイソレータ、AOM(音響光学素子)は、日欧の精密光学メーカーが個別部品として供給してきた。これらがチップスケールのフォトニクス・エンジンへと置き換われば、個別部品の納入余地は狭まり、フォトニクス集積回路(PIC)向けの高精度光学薄膜や化合物結晶ウェハーの供給といった、より上流の部材供給レイヤーへ押し込まれることになる。

加えて、米商務省による出資とOTA契約に基づく枠組みは、先端量子コンポーネントの対外輸出管理や知財の米国内留保を強める方向に働く。日本のシステムインテグレーターや研究機関がQuantinuumなどの先端イオントラップチップや集積光学系を調達しようとした際、機微技術として供給制約を受けるリスクも現実味を帯びてくる。

参考記事: 光量子コンピュータの仕組みと2033年ロードマップ|DARPAがPsiQuantumに1.25億ドルを投じた技術構造

今後取るべき技術戦略とアクション

米商務省とQuantinuum、GlobalFoundriesの提携は、量子コンピュータの覇権争いが「物理層の原理実証」から「半導体工場の製造キャパシティとサプライチェーンの統合度」へ移行したことを決定づけた。国内の技術責任者および事業開発部門は、研究開発パイプラインと調達方針を直ちに再点検する必要がある。

  1. 半導体ファウンドリとの受託製造アライアンスの形成

国内の量子ハードウェア開発企業や研究機関は、独自の試作設備維持に固執せず、産総研TIAなどの共用ファブや国内外の300mm半導体受託製造ラインへのプロセス移管を急ぐ必要がある。微細化そのものよりも、ウェハー全面での均一性、低寄生容量、表面清浄度を担保できる量産プロセスを早期に確保することが、FTQC世代での生存条件となる。

  1. 光集積回路(PIC)サプライチェーンへの参入と標準化への関与

光学部品メーカー各社は、単体レーザーモジュールやレンズの供給モデルから脱却し、シリコン窒化膜導波路やインターポーザー技術を用いた集積フォトニクス基盤への部材供給へ舵を切るべきである。Monarch Quantumなどの新興プラットフォーマーが主導するパッケージング規格に対し、自社の低損失材料や接合技術を標準仕様として組み込ませるアプローチが求められる。

  1. 量子ハードウェア調達のマルチベンダ・マルチアーキテクチャ化

クラウド経由で量子計算リソースを利用する国内ユーザー企業は、米国の輸出規制強化やサプライチェーンの囲い込みを見越し、単一のハードウェア方式や特定ベンダーへの過度な依存を避ける必要がある。イオントラップ型だけでなく、超伝導、中性原子、シリコンスピン型など、国内外の異なるファウンドリ基盤を持つシステムを柔軟に切り替えられる抽象化レイヤー(ミドルウェア)の整備を前提にシステムを設計することが不可欠である。


出典: 共同通信PRワイヤー
出典: TradingView
出典: Electronics360
出典: Quantum Computing Report
出典: Monarch Quantum
出典: Monarch Quantum (Funding Round)
出典: National Institute of Standards and Technology (NIST)
出典: GlobalFoundries
出典: Quantinuum IR
出典: Manufacturing Dive
出典: U.S. Senator Chuck Schumer Official Release

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