Anthropic(アンソロピック)は2026年10月6日から、ClaudeのProおよびMaxプランにおけるAIエージェント「Cowork」の新規タスク実行基盤を、端末ローカルから自社クラウドサーバーへと移行します。端末を停止しても長時間のバックグラウンド処理が可能になる一方、データ保存地域や暗号化仕様が非開示であるため、2026年内のセキュリティポリシー改定を控える国内企業のIT責任者は運用の切り分けを迫られます。
2026年10月6日施行のクラウド移行と機能変更の全容
Anthropicは2026年10月1日、公式サポートページを更新し、Proプラン(月額20ドル)およびMaxプラン(月額100ドル/200ドル)で作成される新規Coworkタスクの実行環境を、ユーザーのPCから同社サーバーへ順次切り替える旨を告知しました。移行日となる10月6日には、設定画面の「一般」項目にある「Only on your computer」オプションも削除されます。
Coworkは2026年1月12日にMaxプラン向け先行機能として登場し、同月16日にはProプランへ提供対象が拡大されました。同年9月中旬にはチャットとCoworkを統合した「One Claude」体験が発表されており、今回の基盤移行はその統合設計をサーバーサイドで完結させるための布石です。
【Cowork実行基盤の移行プロセス】
2026年1月12日: Maxプラン向けにローカル中心で提供開始
2026年1月16日: Proプランへ対象拡大(「Only on your computer」提供)
2026年9月16日: チャットとCoworkのUI統合(One Claude)
2026年10月1日: サポートページ更新、クラウド移行を公式発表
2026年10月6日: 新規タスクのクラウド既定化、ローカル限定設定を廃止
今回の改編によって、タスクの実行場所と各種機能の動作条件は以下のように再定義されました。
| 機能・項目 | 2026年10月5日以前 | 2026年10月6日以降 |
|---|---|---|
| 新規タスク実行基盤 | ユーザーPCまたはクラウドを選択可能 | クラウド実行に固定(ローカル限定設定は廃止) |
| 端末停止時のタスク継続 | 端末スリープや電源オフでタスク中断 | バックグラウンドで非同期に処理を継続 |
| 既存タスク(移行前作成) | 端末上でそのまま実行・保持 | 移行前に開始したタスクは端末上で継続完了可能 |
| ローカルファイル読み書き | 接続フォルダに対して直接実行 | Claude Desktopアプリ起動時のみ接続フォルダにアクセス可能 |
| ローカルMCPサーバー連携 | ローカル環境から直接接続 | Claude Desktopアプリを経由してローカル通信を中継 |
| 内蔵ブラウザ・画面直接操作 | 端末上で自律的に実行 | Claude Desktopアプリが起動している画面でのみ実行可能 |
注意すべきは、クラウド移行後もローカルリソースを扱う処理にはデスクトップアプリの常駐が必須である点です。ローカルフォルダ内のファイル読み書き、ローカル環境に立ち上げたMCP(Model Context Protocol)サーバー、内蔵ブラウザの描画、GUIの直接操作(クリックや入力)という4つの機能は、Web版やモバイル版から指示を出した場合でも、クライアントPC側でClaude Desktopアプリが稼働していなければ処理を完結できません。
参考記事: Anthropic Fable 5.1発表 38時間自律とコスト75%減が迫るAI戦略
非同期自律ワーカーへの転換と技術的アーキテクチャの境界線
基盤移行の最大の動機は、クライアント端末の計算資源やネットワーク接続状況に依存しない「非同期自律処理」の実現にあります。従来のローカル実行環境では、ラップトップPCを閉じる、あるいはOSがスリープ状態に入った瞬間にプロセスが強制中断される制約を抱えていました。
クラウド常駐型アーキテクチャへの刷新により、ユーザーはモバイル端末やブラウザから重厚なタスクを発火させ、そのまま端末の電源を切ることが可能になりました。長時間のWebリサーチや大規模な文書校正、定時バッチ処理をサーバー側で非同期に完結させ、ユーザーは完了通知を受け取るだけで業務を進められます。
【非同期ハイブリッド実行アーキテクチャ】
[Web / Mobile UI]
│
▼ (指示送信・監視)
[Anthropic Cloud Server] ── (推論・プランニング・状態管理)
│
▼ (ローカル処理要求のトンネリング)
[ユーザー端末: Claude Desktop App]
├── ローカルファイルシステム (指定フォルダのみ)
├── ローカルMCPサーバー (社内DB / プライベートAPI)
└── OSネイティブ操作 (画面クリック・キーストローク・内蔵ブラウザ)
このモデルを成立させる前提条件として、Anthropicは推論基盤のステート管理をクラウド側へ集約しました。セッション状態や短期記憶(Memory)がサーバー側で一元管理されるため、PCで開始したタスクを移動中にスマートフォンから確認し、必要に応じて追加の指示を与えるクロスデバイス運用がシームレスに行えます。
しかし、この構造は完全なサーバーレス自律稼働を意味するわけではありません。OSネイティブな画面操作や自社ネットワーク内のMCPサーバーを利用するタスクでは、クラウド側と端末側のClaude Desktopアプリとの間で安全なトンネリングを確立し続ける必要があります。端末側のアプリが終了すれば、それら4機能に依存するステップでエージェントは待機状態に陥ります。
データ主権とセキュリティにおける3つのブラックボックス
利便性が飛躍する一方で、エンタープライズの法務・情報セキュリティ部門にとって看過できないのが、Anthropicの公式ドキュメントに明記されていないデータガバナンスの詳細です。
【公式サポートページで言及されていない3つの論点】
1. 保存先データセンターの地理的所在 (データレジデンシー)
2. 保存時 (At-Rest) および通信時 (In-Transit) の暗号化標準
3. Anthropic社内エンジニアによるセッションデータへのアクセス権限規程
第一に、クラウド上で実行されるセッションのキャッシュや生成ファイルが、物理的にどの国のデータセンターへ保管されるのかが明らかにされていません。欧州連合のGDPR(一般データ保護規則)や、越境データ移転の制限を課す各国のデータプライバシー法令への準拠確認は、現状では利用企業の自己責任に委ねられています。
第二に、データ保存時における暗号化方式(AES-256等の規格や顧客管理暗号鍵の適用の有無)の技術的詳細が公開されていません。公式ドキュメントでは「セッションを削除するとダウンロードしたファイルも消去される」と記載されているものの、これは運用規約上の説明であり、暗号学的・ハードウェア的な消去保証を証明する監査ログは提供されていません。
第三に、障害対応や不正検知の目的で、Anthropic内部の運用スタッフがどこまでユーザーのセッション内容を閲覧できるのか、そのアクセス権限管理(IAM)ポリシーが不透明です。AIモデルの学習利用に関しては「Help improve our AI models」の設定をオフにすることで回避可能とされていますが、推論実行時のデータ主権そのものを証明する監査証跡はPro/Maxプラン単体では担保されません。
参考記事: AnthropicがEFS発表|100社超と挑むデータ主権とAI運用の両立
国内企業におけるワークフロー分離と実装ロードマップ
今回の仕様変更を受け、Claude ProおよびMaxプランを業務活用している国内企業は、タスクの性質に応じた厳格な利用分類を策定する必要があります。すべてのワークフローを一律にクラウドへ委譲することは、意図しないデータ漏洩リスクを招きかねません。
実務上の対抗策として推奨されるのが、「機密コード・コア資産」と「公開情報リサーチ・定型処理」の物理的分離です。
【業務特性に応じた実行環境の切り分け】
■ クラウド版 Cowork (Pro / Max)
- 対象: オープンデータの収集・要約、汎用文書作成、定時情報モニタリング
- 特徴: 端末停止中もバックグラウンドで自律稼働、セッションはクラウド保存
■ Claude Code (Desktop環境)
- 対象: 機密ソースコードの解析、特許関連リサーチ、顧客個人データの加工
- 特徴: コードやファイルを端末ローカルでのみ処理、外部流出を最小化
■ Enterprise / EFS (プライベート環境)
- 対象: 金融・医療等の規制業界データ、厳格な監査が求められる全社基盤
- 特徴: 自社VPC内ログ隔離、完全なデータ主権の保証
機密性の高いプログラミング業務やローカルファイルを直接読み書きさせる作業には、端末側で独立して動作する「Claude Code」デスクトップアプリの併用が有効です。Claude Codeはデータをローカルマシン内に留めた状態で処理を完結させるため、クラウド移行されたCoworkのセキュリティ懸念を迂回する選択肢となります。
さらに、業務利用アカウントと私的アカウントの完全分離も必須要件です。同一ブラウザや同一クライアント環境でアカウントを共有していると、クラウド側の一元化されたMemory機能を通じて、社外秘のコンテキストが意図せず別セッションへ引き継がれる恐れがあります。
今後推奨される3つの具体的アクション
ProおよびMaxプランのクラウド強制移行に伴い、技術責任者および導入担当者は以下のステップを速やかに進める必要があります。
- 機密データを取り扱う業務プロセスの棚卸しと監査
現在Coworkに接続しているローカルフォルダの内容を精査し、顧客個人情報や未公開の開発資産が含まれていないかを確認します。該当する資産が存在する場合は、接続を即座に解除し、ローカル実行が担保されるClaude Code等のツールへ運用を移行させてください。
- 社内Claudeアカウントの設定確認とプライバシー設定の固定
全社で利用しているPro/Maxアカウントの設定を開き、「Help improve our AI models」が確実にオフになっているかを点検します。同時に、共有不要なコンテキストがクラウド側へ蓄積されるのを防ぐため、タスク開始時に不要なMemory機能を無効化する社内ガイドラインを周知してください。
- クラウド常駐を前提とした長時間バックグラウンド処理の再設計
これまで端末の起動維持がネックとなり断念していた長時間の競合分析や定期バッチ処理を、クラウド実行向けに再設計します。夜間や移動中に自律実行させるワークフローを構築することで、今回の仕様変更による生産性向上を享受できます。
出典: Pasquale Pillitteri
出典: Claude Help Center (Use Cowork)
出典: Claude Help Center (Get Started)
出典: Claude Help Center (Max Plan)
