世界の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、鉄鋼、セメント、化学などの「ハード・トゥ・アベート(削減困難)」部門が占める割合は約30%に達します。即座の電化や燃料転換が技術的に困難なこれらの産業プロセスにおいて、排出されたCO2を直接回収し、大気への放出を防ぐ「二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)」は、カーボンニュートラル達成への必須要件です。本分野は、2024年5月の「CCS事業法」成立を機に、民間投資を呼び込む法的基盤が整い、2030年の本格実用化に向けた動きが加速しています。
- 脱炭素(GX)を牽引するCCS/CCUSの基本構造と境界線
- CCSとCCUS・カーボンリサイクルを分ける「目的」と「利用形態」の対比
- ネガティブエミッション技術(BECCS/DAC)とCCSの機能的・技術的境界
- CO2分離・回収から貯留に至る3大プロセスと技術の現在地
- 化学吸収法・物理吸収法・膜分離法から「相分離型」まで進化するCO2分離技術
- 高圧輸送と枯渇油ガス田・帯水層への深部地層貯留における地質学的条件
- 日本国内における2030年本格実用化ロードマップと実証の成果
- 累計30万トンの圧入実績をもつ「苫小牧実証試験」の定量的な検証成果
- 経済産業省が選定した「先進的CCS事業」7プロジェクトのエリア別進捗状況
- 2024年成立「CCS事業法」の骨子と参入企業が直面する法的要件
- 「試掘権」と「貯留権」の創設に伴う鉱区重複調整ルールと許可基準
- 導管輸送事業の届出義務と事故発生時における長期法的責任(LAs)の範囲
- CCSの経済性評価と主要プレイヤーによる投資・実装シナリオ
- CO2回収・貯留コストの現状と「1トン=4,000円以下」への低減シナリオ
- 三菱重工・東芝・JGCなどの国内主要技術ホルダーの事業提携・海外進出状況
脱炭素(GX)を牽引するCCS/CCUSの基本構造と境界線
再生可能エネルギーや水素・アンモニア燃料への移行期(トランジション期)において、既存の火力発電や大規模プラントの設備寿命(アセット)を活かしつつ、排出量を実質ゼロに抑えるアプローチがCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)です。グリーントランスフォーメーション(GX)の推進において、日本政府は2030年までのCCS事業開始に向けた明確なマイルストーンを設定しています。民間投資を促す法的基盤として、2024年5月には探査や貯留に関する権利設定、保安規制を定めた「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」が成立しました。
CCSとCCUS・カーボンリサイクルを分ける「目的」と「利用形態」の対比
CCS、CCUS、そしてカーボンリサイクルは、回収したCO2の「最終的な処理形態」によって区分されます。数百年以上にわたり炭素を完全に隔離し続けるCCSに対し、カーボンリサイクル製品は燃料などとして再利用される際にCO2が再び大気中に放出される性質を持ちます。このため、再利用型アプローチの導入においては、ライフサイクル全体での排出量評価(LCA)を厳格に行うプロセスが不可欠です。各概念の機能的な境界線を以下の表に整理します。
| 用語 | 定義・主目的 | CO2の行方 | 代表的な技術・実用例 |
|---|---|---|---|
| CCS | 排ガス等からCO2を分離・回収し、地中深くに貯留・隔離する。 | 地下1,000〜3,000mの遮蔽層(泥岩など)の下にある貯留層(砂岩など)に永続封入。 | 北海道・苫小牧沖の深部地層への圧入・貯留(詳細は後述)。 |
| CCUS | 二酸化炭素回収・有効利用・貯留の全体を指す包括的な概念。 | 一部は地中に貯留され、別の一部は産業用途に有効利用される。 | EOR(増進回収法:古い油田にCO2を圧入して原油回収率を高めつつ貯留する技術)。 |
| カーボンリサイクル | CO2を「資源」として再利用し、新たな化学品や燃料、建材に変換する。 | 別の製品(化成品、コンクリート、合成燃料など)に固定・再資源化される。 | CO2を吸収して硬化するコンクリート「CO2-SUICOM」(鹿島建設などが開発)や合成燃料(e-fuel)。 |
ネガティブエミッション技術(BECCS/DAC)とCCSの機能的・技術的境界
工場や発電所の煙突から高濃度のCO2を回収する「ポイントソース回収(通常のCCS)」は、経済活動によるプラスの排出量をゼロに近づけるための緩和策です。これに対し、大気中にすでに希釈されたCO2を直接回収し、地球上の総炭素量を実質的に減少させる技術を「ネガティブエミッション技術(NETs)」と呼び、BECCS(バイオマスエネルギーCCS)とDAC(ダイレクトエアキャプチャー)がこれに該当します。両者には、物理化学的および環境負荷の観点から以下の明確な境界が存在します。
- 回収対象の濃度差とエネルギー効率:産業排ガス中のCO2濃度が約5%〜30%であるのに対し、大気中のCO2濃度は約0.04%(約420ppm)と極めて希薄です。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、ポイントソース回収型のCCSの回収コストが1トンあたり約30〜100ドルであるのに対し、現状のDAC技術では1トンあたり約600〜1,000ドルに達しており、熱・電気エネルギーの必要量に10倍以上の技術的境界線が存在します。
- 土地・水資源の制約条件:BECCSは植物の成長過程で吸収したCO2を燃料として燃焼させ、その排ガスからCCSを行うことで純負の排出を達成します。しかし、これをグローバルスケールで展開する場合、食料生産と競合する広大な作付面積や水資源が必要となり、単純な産業用CCSとは異なる生態系への制約を伴います。
CO2分離・回収から貯留に至る3大プロセスと技術の現在地
CCS/CCUSの社会実装におけるボトルネックは、バリューチェーン全体コストの約6割から7割を占める「分離・回収」プロセスです。火力発電所や製鉄所の排ガスからCO2のみを分離する際に発生する「エネルギーペナルティ(回収のために消費される追加エネルギー)」をいかに低減するかが、経済的なカーボンリサイクルや地中貯留を実現する上での主たる論点です。
化学吸収法・物理吸収法・膜分離法から「相分離型」まで進化するCO2分離技術
CO2分離・回収技術は、排ガスの圧力やCO2濃度に応じて適した方式が選択されます。工業的に広く普及している化学吸収法は、アミン系水溶液にCO2を吸収させ、約100℃から120℃に加熱して回収します。しかし、CO2 1トンあたり約2.5〜3.0 GJ(ギガジュール)の熱エネルギーを再生プロセスで消費するため、排熱が限られる製造現場ではコスト増を招きます。これを解決するため、2020年代に入り「相分離型吸収剤」をはじめとする次世代技術の開発が進展しています。各分離回収方式の特性は以下の通りです。
| 分離回収方式 | 物理的・化学的メカニズム | メリット | エネルギー消費量(目安) | 代表的な適用・実証事例 |
|---|---|---|---|---|
| 化学吸収法 | アミン系溶剤とCO2の化学反応。熱により再分離。 | 低圧・低濃度の排ガス(燃焼排ガスなど)から高純度回収が可能。 | 2.5 〜 3.0 GJ / t-CO2 | 火力発電所・工場排ガス回収等の商用プラント |
| 物理吸収法 | 高圧下で物理溶剤に溶解。減圧により再分離。 | 高圧ガスに適し、再生に必要な熱エネルギーが少ない。 | 1.0 〜 1.5 GJ / t-CO2(主に圧縮動力) | 化学プラント、石炭ガス化プロセス |
| 膜分離法 | 高分子や無機質膜への気体透過速度の差を利用。 | 装置がコンパクトで相変化が不要。保守が容易。 | 0.5 〜 1.5 GJ / t-CO2(電気駆動) | 地球環境産業技術研究機構(RITE)分子ゲート膜プロジェクト |
| 相分離型(開発中) | CO2吸収後に液が2相に自然分離。高濃度相のみを加熱。 | 加熱する溶剤量を削減し、熱エネルギーを大幅に抑制。 | 1.2 〜 1.5 GJ / t-CO2 | 産業技術総合研究所(産総研)・東芝等の共同研究プロセス |
上記のうち、産総研や東芝などが開発を進める相分離型技術は、CO2を吸収した液が「CO2高濃度相(リッチ相)」と「低濃度相(リーン相)」に分かれる特性を利用します。リッチ相のみを加熱再生器に送液することで、熱エネルギーを従来の約半分(1.5 GJ/t-CO2以下)に抑え、回収コストを従来の4,000円/t-CO2規模から2,000円/t-CO2台へと引き下げる技術的道筋が描かれつつあります。
高圧輸送と枯渇油ガス田・帯水層への深部地層貯留における地質学的条件
回収されたCO2を貯留地まで安全に運ぶため、輸送状態の制御が必要です。パイプライン輸送では、CO2を温度31.1℃以上、圧力7.38 MPa以上の「超臨界状態」に保持します。超臨界状態は気体のような拡散性と液体に近い密度を併せ持つため、管径を抑えた効率的な大量輸送が可能です。一方、遠隔地や海洋を跨ぐ船舶輸送では、CO2を約マイナス20℃〜マイナス50℃、圧力0.7〜2.0 MPaの「低温低圧状態(液化CO2)」に制御し、体積を気体時の約350分の1に収縮させて積載します。
貯留プロセスにおいては、深度800メートル以深の地層が対象となります。この深度では、地熱と地圧の作用によりCO2が超臨界状態で維持されます。安定した地中貯留を成立させるためには、物理的に役割の異なる以下の2つの地層構造が必要です。
- 貯留層:砂岩などの孔隙が多く、高い浸透性を持つ地層。超臨界CO2を岩石の隙間に浸透させ、保持する役割を担います。
- 遮蔽層(キャップロック):泥岩などの緻密で流体を透過させない地層。貯留層の直上に位置し、浮力で上昇しようとするCO2を堰き止め、地表や海底への漏洩を防ぎます。
日本国内における2030年本格実用化ロードマップと実証の成果
日本政府は、2050年のカーボンニュートラルに向け、2030年までに年間600万トンから1,200万トンのCO2貯留体制を構築する「CCS長期ロードマップ」を策定しています。日本の排出源(太平洋側臨海部)と貯留適地(日本海側や海外)の乖離を解消するため、液化CO2船舶による長距離輸送サプライチェーンの構築が進められています。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のもと、商船三井などが参画する1,250立方メートル級液化CO2実証船の運用実験等を通じ、低圧・常温近傍での海上輸送技術の確立が急がれています。
累計30万トンの圧入実績をもつ「苫小牧実証試験」の定量的な検証成果
日本の地質環境におけるCCSの安全性と実用性を実証したプロジェクトが、北海道苫小牧市沖で実施された「苫小牧実証試験」です。経済産業省主導のもと、日本CCS調査株式会社(JCCS)が実施主体となり、2016年4月から2019年11月にかけてCO2の圧入が実施されました。製油所の水素製造装置から排出されたガスからアミン吸収法で回収したCO2を用い、累計300,110トンの圧入を達成しています。
本実証試験では、海底下約1,000〜1,200mの砂岩層(萌別層:貯留層)と、その直上の泥岩層(滝ノ上層:遮蔽層)を利用し、以下の定量的な安全評価データが得られました。
- 微小地震のモニタリング:気象庁の観測網と連携し、微小な地殻変動を常時監視。CO2圧入に起因する、人間が揺れを感じる有感地震(マグニチュード1以上)の発生数は「ゼロ」を記録しました。
- 地層挙動シミュレーションの精度:産業技術総合研究所(産総研)が構築した地層モデルによる圧力・温度変化予測と、実際の観測データの誤差は数%以内に収まり、CO2が遮蔽層の下に安定して留まっていることが科学的に実証されました。
- 海洋環境への影響評価:海底堆積物や海水の定期サンプリング調査において、CO2漏洩を示す化学的・生物学的な異常値は一切検出されませんでした。
経済産業省が選定した「先進的CCS事業」7プロジェクトのエリア別進捗状況
2030年の本格事業化に向け、経済産業省およびエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、国内排出源と貯留適地を接続する「先進的CCS事業」として7つのプロジェクトを選定し、基本設計(FEED)や試掘調査を支援しています。国内貯留に加え、マレーシア等への越境輸送貯留も視野に入れたポートフォリオが構築されています。
| プロジェクト名 | 主な参画企業 | CO2回収源・貯留エリア | 目標スペックおよび進捗状況 |
|---|---|---|---|
| 日本海側東北CCS | 国際石油開発帝石(INPEX)、日本製鉄など | 新潟県周辺の製鉄所・化学プラント等 / 新潟県沖合の油ガス田跡・深部塩水層 | 2030年度に年間約150万トンの貯留を目指す。既存油ガス田データを活用した貯留層評価、および液化・圧入設備の基本設計(FEED)を実施中。 |
| 東北日本海側CCS | 石油資源開発(JAPEX)、東北電力など | 秋田県・山形県の火力発電所・産業排出源 / 秋田県・山形沖合の深部塩水層 | 年間約200万トンの貯留を想定。貯留地周辺の3次元地震探査データを解析中で、陸上・海上パイプラインのルート選定を進行。 |
| 東柏崎沖CCS実証 | INPEX | INPEX青海川生産プラント等(自社排出) / 新潟県柏崎市沖の枯渇ガス層 | 陸上から傾斜掘りを行い海底下へ圧入。2020年代後半の早期圧入開始を目指し、試掘および地上設備の建設準備を進める。 |
| 首都圏CCS | 日本製鉄、JFEスチール、三菱商事など | 東京湾湾岸の製鉄所、化学プラント、電力 / 国内(日本海側等)または海外貯留地 | 東京湾臨海部の複数拠点からCO2を集約し、海上輸送・貯留を行う広域連携案件。海上輸送スキームの概念設計を推進。 |
| 九州西側沖合CCS | ENEOS、電源開発(J-POWER)、JX石油開発など | 九州地区の製油所、火力発電所等 / 九州西側沖合の深部塩水層 | 年間約300万トンの貯留を計画。貯留地のポテンシャル確認のための地質調査、および液化CO2積出港の選定を実施。 |
| マレーシアSarawak(サラワク)CCS | JAPEX、出光興産、ENEOS、ペトロナスなど | 瀬戸内等の臨海部産業地帯 / マレーシア・サラワク州沖の枯渇ガス田 | 国内回収の液化CO2を船舶輸送し、同国国営ペトロナス社の枯渇ガス田に貯留する計画。2030年までに年間200万トン以上の圧入を目指しFEEDを実施中。 |
| 大洋州・マレーシアCCS(南部マレー半島) | 三菱商事、ENEOS、ペトロナスなど | 国内製油所・産業排出源 / マレー半島東方沖の枯渇ガス田・深部塩水層 | マレー半島沖の貯留層への越境輸送を検証。ロンドン条約議定書改定に基づく国間合意の形成と並行し、共同事業化調査を推進。 |
2024年成立「CCS事業法」の骨子と参入企業が直面する法的要件
これまでCCS事業の権利関係や安全規制を直接規律する法律は存在せず、民間企業の大規模投資における最大のボトルネックとなっていました。2024年5月に成立した「CCS事業法」は、地下を公的に管理し、事業者の投資回収の安定性を確保するとともに、長期にわたる法的リスクを明確化する役割を持っています。
「試掘権」と「貯留権」の創設に伴う鉱区重複調整ルールと許可基準
本法により、特定の地下空間を他者の干渉なく調査・利用できる「試掘権」および「貯留権」が創設されました。これらは経済産業大臣による許可制で、既存の鉱業権(天然ガスや石油開発など)や温泉掘削権と重複した場合は、事業者間の事前協議が義務付けられます。不調に終わった際は、国の裁定による調整プロセスが実行されます。事業許可を得るための主要な要件は以下の基準に基づいて判定されます。
| 要件項目 | 具体的な許可基準と実務上の要求水準 |
|---|---|
| 技術的能力 | 貯留層の地質構造評価、断層の安定性解析、およびCO2挙動シミュレーションを適切に実行できる人員・知見を有していること。 |
| 経理的基礎 | 数十年に及ぶ圧入および閉鎖後の監視を完遂できる自己資本や、JOGMECの債務保証制度を組み込んだ資金調達計画を有すること。 |
| 安全確保措置 | 微小地震の連続監視体制の配備。貯留層圧力の異常上昇時に対応する緊急遮断システムの設置など、技術基準に適合すること。 |
導管輸送事業の届出義務と事故発生時における長期法的責任(LAs)の範囲
CO2を陸上・海上から輸送するパイプライン(導管)事業については、事前の届出が義務付けられます。さらに、インフラの独占による不当な価格設定を抑止するため、他者からの輸送依頼を拒めない「託送供給義務」が適用されます。実務上は、第三者アクセスを前提とした料金設定や利用規約の作成を求められます。
地下に圧入されたCO2の管理に関しては、事業期間に応じた段階的な責任移管制度(LAs)が導入されました。
- 圧入および閉鎖準備期間(事業者の一次責任):事業者は貯留層内のCO2挙動を継続監視する義務を負います。この期間中の漏洩等に対しては「無過失責任」が適用され、過失がない場合でも損害賠償義務が発生します。
- JOGMECへの管理移管(国の最終責任):圧入終了後、貯留層内の温度・圧力等が安定し、実測値とシミュレーション値が合致して漏洩の恐れがないと経済産業大臣が認定した段階で、監視業務と管理責任はJOGMECへ移管されます。移管後は事業者の監視義務が免除されます。
この管理移管プロセスを完了するには、将来の長期モニタリング費用をカバーするための「管理積立金」を事業者が国へ納付することが法律上義務付けられており、投資回収計算においてあらかじめ織り込む必要があります。
CCSの経済性評価と主要プレイヤーによる投資・実装シナリオ
欧州排出権取引制度(EU-ETS)における炭素価格が1トンあたり70〜90ユーロ(約11,000円〜14,000円)で推移する中、日本でもGXリーグの超過削減枠取引や炭素税引き上げが議論されています。企業がCCSへの投資判断を下す上では、「CO2回収・貯留コストが将来の炭素価格ペナルティを下回ること」が基準となります。
CO2回収・貯留コストの現状と「1トン=4,000円以下」への低減シナリオ
現在、日本国内におけるCCSのバリューチェーン全体コストはCO2 1トンあたり約12,000円〜20,000円と試算されています。このうち最大のコスト負担である分離・回収プロセスを「2030年までに1トンあたり4,000円以下(回収フェーズ単体)」に抑えるためのシナリオが以下のように整理されています。
| プロセス | 現状のコスト水準(円/t-CO2) | 2030年目標コスト(円/t-CO2) | 主要なコスト低減アプローチ |
|---|---|---|---|
| 分離・回収 | 約5,000〜10,000 | 4,000以下 | 省エネ型化学吸収液の採用、固体吸収法・膜分離法の社会実装 |
| 輸送(船舶・陸送) | 約2,000〜5,000 | 約1,000〜2,000 | 液化CO2大型輸送船の標準化、共同輸送パイプラインの敷設 |
| 貯留(圧入・モニタリング) | 約3,000〜6,000 | 約1,500〜3,000 | 適地スクリーニングの高速化、分散型モニタリングセンサーの導入 |
分離・回収コストを抑える有力な選択肢として期待されるのが「膜分離法」です。アミン溶液の加熱(蒸気発生)を必要とする化学吸収法とは異なり、圧力差のみでCO2を分離するため、運用コスト(OPEX)を大幅に抑制できます。半導体製造拠点や中規模化学プラントなどの排ガス(低CO2濃度)に対して、膜分離モジュールを並列設置して分散型で回収するシステムの適用検討が開始されています。また、コンクリート廃材にCO2を吸着させ固定化するカーボンリサイクル建材の製造プロセスなどと組み合わせ、J-クレジットの売却益を回収コストの補填に充てる構造設計も進められています。
三菱重工・東芝・JGCなどの国内主要技術ホルダーの事業提携・海外進出状況
国内のエンジニアリング会社・電機メーカーは、自社開発の要素技術を活かし、海外プロジェクトの受託やグローバルアライアンスを活発化させています。
- 三菱重工業(MHI):関西電力と共同開発した化学吸収液「KS-1」「KS-21」を強みに、世界の回収プラント市場で先行しています。英国最大のバイオマス発電事業者ドラックス(Drax)グループと契約を交わし、同国発電所で年間最大800万トンを回収する世界最大級のBECCSプロジェクトにおいて商用ライセンス技術の提供を進めています。
- 東芝(東芝エネルギーシステムズ):福岡県大牟田市のシグマパワー有明・三川発電所内に、1日10トンのCO2回収能力を持つ実証設備を建設し、実際の排ガスを用いた吸収剤の劣化抑制データを蓄積。これをベースにごみ焼却施設やバイオマス発電向けパッケージ型回収装置の展開を図っています。
- 日揮ホールディングス(JGC):マレーシア国営石油ペトロナス等と組み、同国沖合の枯渇ガス田を対象とした「Kasawari CCS」プロジェクトの基本設計(FEED)業務を受託。LNGプラント建設で培った超低温技術を応用し、日本国内で回収した液化CO2を船舶でマレーシアへ輸送して海洋貯留する「越境CCSサプライチェーン」のエンジニアリング構築をリードしています。
これらの技術・アライアンスの動向を踏まえ、民間事業者が自社の事業戦略にCCS/CCUSを統合するための具体的な実装ステップは、以下のプロセスに集約されます。
- 自社排ガスの特性プロファイリング:自社拠点の排ガス中のCO2濃度、排ガス温度、余剰熱の有無を測定し、膜分離法・相分離型等の複数の回収システムから、適した技術を選択する。
- 先進的CCS事業コンソーシアムへの参画:単独での貯留地確保は莫大な初期投資(CAPEX)を伴うため、JGCや石油資源開発(JAPEX)などが進める先進的CCS事業の連携プロジェクトへ「CO2排出源」として参加し、初期輸送・貯留インフラの構築負担を分散する。
- カーボンリサイクルによる追加キャッシュフローの創出:回収したCO2をコンクリートの炭酸塩固定化や合成メタノールなどの原料に変換し、低炭素価値を上乗せした製品として販売する、あるいはグリーンクレジット化して売却するスキームをあらかじめ構築する。
よくある質問(FAQ)
Q. CCSとCCUSの違いは何ですか?
A. CCSは回収した二酸化炭素(CO2)を地中深くに貯留(保管)する技術です。一方、CCUSは回収したCO2をただ貯留するだけでなく、化学品や燃料などの原料として「有効利用」するプロセスまで含む点が異なります。いずれも鉄鋼や化学など、電化が難しい削減困難部門のカーボンニュートラル達成に不可欠な技術です。
Q. 日本におけるCCSの実用化はいつ頃になりますか?
A. 日本では、2030年の本格的な実用化(事業化)を目指しています。2024年5月に「CCS事業法」が成立したことで民間投資を呼び込む法的基盤が整い、ロードマップが加速しました。現在は経済産業省が選定した「先進的CCS事業」の7プロジェクトなどを中心に、2030年の操業開始に向けた開発が進められています。
Q. CCS(炭素回収・貯留)のコストはいくらですか?
A. CCSのコストはCO2の分離・回収、輸送、地中貯留の各プロセスで発生し、現在は高額な初期・運用投資が課題となっています。しかし今後の技術革新や規模の経済により、将来的には「CO2 1トンあたり4,000円以下」にまで低減させるシナリオが描かれており、経済性の改善に向けた取り組みが進んでいます。